ポイント
- スマート農業は、データやAIを使って作業を省力化し、収益を上げる新しい農業のスタイル
- スマート農業導入に活用できるのは、国と自治体の2種類
- 大規模な設備投資を行う場合は国の補助金、小規模の場合は自治体の補助金
スマート農業の導入費用が補助対象になる補助金を紹介します。2026年、スマート農業導入を検討している農業者の方はぜひお役に立てください。

カミーユ行政書士事務所代表・行政書士
補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。
慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。 『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。 リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。
スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)などの先端技術を使い、省力化・精密化・高品質生産を実現する新しい農業のことです。農作業の効率を上げて収量や品質を高めることを目指した取り組みで、AIやセンサー、データ活用がポイントです。
スマート農業に該当する主な取り組みとして、以下が挙げられます。
スマート農業事業には、国と自治体の2つの補助金制度を活用できます。
| 補助金の種類 | 主な対象 | 特徴 |
| 国の補助金(例:スマート農業総合推進事業) | 法人・営農グループ | 大規模・高額投資向け。補助率1/2前後。書類が多く審査も厳しい。 |
| 自治体の補助金(例:市町村のスマート農業推進事業) | 個人農家・中小規模農家 | 補助上限50〜100万円程度。申請が簡単で採択率が高い。 |
大規模な設備投資や新技術の実証を行いたい場合は国の補助金、一方でセンサーやICT機器を小規模に導入したい場合は自治体の補助金を選ぶとよいでしょう。
スマート農業を始める多くの農業者にとっては、自治体の補助金の方が利用しやすいと言えます。申請の手続きや要件が比較的シンプルで、地元のJAや市町村職員に相談しながら進められるなどの理由があるためです。
たとえば、北海道中富良野町が実施する「スマート農業導入緊急対策支援事業」では、ドローンや自動換気装置などの導入費用に対して補助が行われています。農業者がドローンとGPSシステムを合わせて100万円分導入した場合、補助率25%で25万円の補助を受けることができます。
このように、小規模導入でも使いやすい制度を設ける自治体は全国的に増えています。
本コラムでは、現場の農家が実際に活用しやすい「自治体の補助金」を中心に紹介します。地域によって名称や補助率は異なりますが、どの制度も共通して「現場の生産性向上」を目的としています。
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自治体のスマート農業支援制度は、地域ごとに導入目的や支援内容が異なります。ここでは、実際に活用しやすい3つの自治体の制度を紹介します。
中富良野町では、町内の農業者を対象に、ドローンや自動潅水装置などのスマート農業機器導入を支援しています。リース契約による導入も補助対象となり、初めて機器を導入する農家でも利用しやすい制度です。
| 補助率 | 補助上限額 | 対象者 |
| 25% | 30万円 | 町内在住の農業者・農業法人など |
宮城県では、農業分野でのドローン活用を広げるため、操縦者の育成にかかる研修費を補助しています。ドローンを導入する前段階として「安全に操作できる人材を増やす」ことを目的とした制度です。
| 補助率 | 補助上限額 | 対象者 |
| 2/3以内 | 20万円 | 県内在住の農業者・農業団体など |
鹿沼市では、スマート農業技術を活用して生産性向上や労働力不足の解消を図る取り組みを支援しています。ドローンや環境センサー、AI営農支援アプリなど、幅広いICT機器が対象となります。
| 補助率 | 補助上限額 | 対象者 |
| 1/2 | 50万円 | 市内の農業者・農業法人など |
参考:鹿沼市
自治体のスマート農業補助金は、ドローン・センサー・AIなどの小規模導入を支援する実践的な制度が多く、個人農家でも活用しやすいのが特徴です。
最新の公募情報は、住んでいる地域の市町村公式サイトや農業振興課ページを確認するのが確実です。
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スマート農業に使える国の補助金として、ものづくり補助金があります。
ものづくり補助金の補助対象となるスマート農業の事業は、生産性を高めるための「革新的な取組」に該当する必要があります。この補助金の目的は、中小企業・小規模事業者が生産性を高めるための「革新的な取組」を行うことだからです。
そのため、スマート農業の導入であっても、制度の趣旨に合わないものは対象外になります。
令和8年度(2026年度)のものづくり補助金はどうなる?
補助対象となるのは、次のような目的を持つ取組です。
例)
一方で、次のようなケースは補助対象外になります。
ものづくり補助金は、中小企業基本法に基づく中小企業者等が対象です。そのため、個人農家は対象外ですが、農業法人(株式会社・農事組合法人など)であれば申請できます。
| 補助額 | 補助率 | 対象経費 |
| 最大4,000万円 | 中小企業:1/2 小規模企業:2/3 | 機械装置費、システム構築費、外注費、技術導入費、専門家費など |
ものづくり補助金は、申請して採択された後に着手する事業が対象です。先に購入や契約をしてしまうと補助対象外となるため、流れを正しく理解しておきましょう。
まず、自社の課題と導入目的を整理し、「どのようなスマート農業設備を導入して、どんな成果を目指すのか」を明確にします。
この内容を「事業計画書」にまとめて申請します。行政書士や専門コンサルタントに作成を依頼することも可能です。
申請は国の電子申請システム「jGrants(ジェイグランツ)」を使って行います。このシステムを使うには、代表者名義の「GビズIDプライムアカウント」が必要です。発行には1〜2週間程度かかるため、早めに手続きを始めましょう。
公募期間中に、jGrants上で申請書や見積書、決算書類をアップロードして提出します。審査では、次のような点が重視されます。
申請後、約1〜2か月で採択結果が公表されます。採択されると、事務局から「交付決定通知書」が届きます。この交付決定日以降に契約・発注・支払いを行った経費のみが補助対象となります。
交付決定前に機器を発注・購入した場合、その費用は補助金の対象外なので注意しましょう。
交付決定後に設備を導入し、補助事業を実施します。
完了後は、領収書や導入写真、成果データをまとめて「実績報告書」を提出します。事務局による書類確認・必要に応じた現地検査を経て、補助金額が確定します。
実績報告が承認されると、補助金が指定口座に振り込まれます。
入金までの目安は、事業完了から1〜2か月程度です。いったん自己資金で支払い、後から補助金が精算払いで支給される点に注意しましょう。
ものづくり補助金は農業にも使える!採択事例つきで申請ポイントを解説!
従業員5名の主にトマトの生産・出荷を行う小規模農業法人
補助金を活用する前は、人手不足が大きな課題でした。収穫や選別の作業量が増える繁忙期には、パートを追加で雇っても人手が足りず、作業が追いつかない状況が続いていました。
また、天候や作物の状態に応じて最適な収穫時期を判断するのが難しく、結果的に収穫ロスが発生していました。
さらに、出荷までの工程が個人の経験や勘に頼っており、生産データを蓄積して分析する仕組みがなかったため、作業の効率化が進まないという問題も抱えていました。
AIとIoTを活用したスマート選別ラインを導入しました。まず、画像認識AIによってトマトの等級を自動で判定するシステムを新たに導入し、作業の効率化を図りました。
さらに、収穫量や気温、湿度といった生育データをクラウド上で管理できるIoTセンサーを設置し、日々のデータを蓄積できるようにしました。これらのデータを一元的に管理する仕組みは、自社と開発ベンダーが共同で構築しました。
導入経費:約1,200万円(補助率2/3、自己負担約400万円)
選別作業の省力化率は約40%向上し、パートの人員を減らしても出荷量を維持できるようになりました。生育データの分析によって収穫タイミングを最適化できるようになり、出荷ロスは15%削減されました。
さらに、蓄積したデータを活用して、翌年からは新たな販路拡大を見据えた「高糖度ブランド」の開発にも着手しました。こうした取り組みにより、人の勘や経験に頼らず品質を維持できる体制が整い、若手従業員の定着率も高まりました。
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スマート農業導入に使える補助金を活用する際のポイントは以下です。
補助金の多くは、申請して採択・交付決定される前に購入や工事を始めたものは対象外です。交付決定日以降に発注・支払いを行った経費だけが対象になります。公募要領の「着手前提」の条文を必ずチェックしましょう。
複数の補助制度を同じ経費に使うことは原則できません。例えば、同じスマート農業機器の導入費用に対して、国の補助金と自治体の補助金を同時に使うことは、原則として認められません。
これは、国の制度でも自治体制度でも同様の取り扱いになります。申請時に他の補助金で同じ経費を申請していないかを必ず確認しましょう。
多くの補助金は「後払い方式」です。つまり、事業を実施してから成果を報告し、その後で支給されます。たとえば、国の制度であるものづくり補助金の場合、設備導入後に報告と審査を経て支給されます。事前に資金繰りの計画が必要ということです。
一部のスマート農業補助金では、導入後の成果を報告する義務が設けられることがあります。これは公的補助金が「投資の効果」を確認するためです。
たとえば、国の補助金では、成果報告書や生産性データの提出が求められます。自治体の補助金でも、導入後の実績データ・写真・報告書などの提出が必須の場合があります。
補助金によっては、報告内容の不備が判明すると、一部返還の対象になることもあります。申請前に要件をよく確認し、対応できる体制を整えておきましょう。
補助金制度は、それぞれの目的や要件に沿った取組を支援するためにあります。
例えば、国の「ものづくり補助金」は、中小企業等が生産プロセスの改善や革新的な取組を進めるための支援制度です。自治体のスマート農業補助でも、地域の課題解決や産地づくりの活性化などの目的が付与されることがあります。
スマート農業導入であれば、単なる設備導入だけではなく、生産性向上・データ利活用・新規事業につながる計画であるかを整理してから申請書類を作成する必要があります。
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国のスマート農業向けの補助金は、基本的に法人化している農業者や団体を対象としています。
一方で、一部の自治体では個人農家も申請対象になる場合があります。たとえば、市町村単位で行われるスマート農業支援事業などでは、個人での申請を認めているケースもあります。
制度の条件は自治体ごとに異なるため、必ず市区町村の農政担当窓口で確認しましょう。
スマート農業導入に使える国の補助金では、数百万円から最大1,000万円超の支援を受けられる場合があります。
一方で、自治体のスマート農業支援補助金は、数十万円から100万円程度が一般的です。補助金の規模は制度によって大きく異なるため、導入する設備の価格や目的に合った制度を選ぶことが重要です。
スマート農業導入にかかる費用は、導入機器によって大きく変わります。たとえば、農薬散布ドローンはおおよそ30〜150万円程度、自動運転トラクターは数百万円以上かかるのが一般的です。
ただし、補助金を活用すれば導入費用の1/2〜2/3が補助される場合もあります。高額なスマート農業機器を導入する際は、補助金制度を活用して自己負担を抑えることが現実的な選択肢になります。
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スマート農業に対する補助金は国のものと自治体のものがありますが、まずは自治体の補助金を最優先に検討されると良いです。申請面の難易度のみならず、実績報告のことを考えると自治体の補助金が取り組みやすくなっています。JAや市町村に確認されると良いでしょう。